親族の方が亡くなられて、いざ相続となると「一体、何をしたらいいの?」となってしまうと思います。
親族の方が亡くなられて精神的なショックの中、「相続」は決められた期間内にさまざまな書類の提出や申告をしなければいけないので、非常に大変です。
相続税の申告がある場合は特に注意が必要です。
今回は、いつまでに、どのような手続をしなければいけないのかを判りやすくご説明したいと思います。
相続の開始(7日以内)
相続する財産の持ち主(被相続人)が亡くなられた時に相続は開始します。
亡くなられた日から7日以内に「死亡届」を、死亡人の本籍地、死亡地、届出人の現住所のいずれかの市区町村の戸籍・住民登録窓口に提出します。
また、死亡届を提出する際には、医師による死亡診断書や警察による死体検案書などが必要になります。
死亡届に関しましては『死亡届の提出方法』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
遺言書の確認
遺産分割をするのに「遺言」が残されている場合は、大変重要な役割をもちます。
でも、遺言書があると判っていれば探しますが、あるかないか判らない場合はどうすればよいのでしょうか?
この探し方は遺言書の種類によって異なります。
自筆証書遺言の探し方
自筆証書遺言とは亡くなられた方ご自身が書かれた遺言書です。
自筆証書遺言に関しましては『「その遺言は無効です!」とならないための自筆証書遺言の書き方5つのポイント』で詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。
実は、自筆証書遺言を確実に探す方法はありません。
生きている時に人に見られたくないから自分で書いて、どこかに保管しているのですから、生前に本人が遺言書の存在を公言していない限り、存在しているかどうかも確かめようがありません。
ただ、本人は亡くなった後には遺言書通りに遺産を分けて欲しくて遺言を残す訳ですから、誰にも見つからないところに隠していることはないと思います。
自筆証書遺言を探す場合は、以下のような人や場所を確認してみると良いでしょう。
- 知り合いの弁護士、司法書士、税理士、行政書士など専門家
- 付き合いのあった銀行や信託銀行
- 菩提寺(亡くなられた方が所属して支援しているお寺)の住職
- 親しかった友人
- 書斎の机の引き出し
- 金庫
- 神棚
ちなみに、遺言書の保管者又は遺言書を見つけた相続人は、家庭裁判所に「検認」という作業を請求しなければいけませんので、ご注意下さい。
検認をする前に「どんな事が書いてるのかな?」と思って開封してしまうと、5万円以下の科料に処せられることがありますので、開封はせずに検認の申立をして下さい。
「検認」に関しましては、『【検認】遺言書があるのにすぐに銀行口座の名義変更ができない?遺言書の執行に必要な「検認」って、何?』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
公正証書遺言の探し方
公正証書遺言というのは、公証役場というところにいる、法務大臣に任命された公証人という法律の専門家が作成する遺言書です。
公正証書遺言に関しましては『安全・確実に遺言書の内容を実行させたい人は「公正証書遺言」にするべき3つの理由』をご参照下さい。
公証役場で公正証書遺言を作成した場合、公証役場に公正証書遺言の原本が20年間保管されます。
公証役場には遺言書検索システムというものがあり、全国どこの公証役場で作成された遺言書であっても検索することが出来ます。(但し、原則として平成元年1月1日以降に作成された公正証書遺言になります。一部昭和55年以降のものも検索出来るものがあります。)
「自筆証書遺言」は探し出せない場合もありますが、「公正証書遺言」は作成していれば簡単に検索出来ますので、是非ご利用されることをおすすめします。
遺言検索システムの利用料金
検索するだけであれば料金は発生しません。つまり無料です。
遺言があると判って閲覧をする場合に200円、謄本を印刷してもらう場合に1通250円がかかります。
遺言検索システム利用の必要書類
遺言者が生きている間は、公証役場へ遺言検索の依頼や謄本の請求は、遺言者本人しかできません。
遺言者が亡くなられた後は、相続人、受遺者、遺言執行者といった利害関係者が請求できるようになります。
利害関係者が遺言検索システムを利用申請するためには以下の書類が必要になります。
- 遺言書者が死亡したことを証明するもの(除籍謄本、死亡診断書など)
- 検索システムの利用者が利害関係者だと証明するもの(戸籍謄本)
- 検索システムを利用する人の本人確認資料(1か2のいずれか)
1:運転免許証やパスポートなどの顔写真入りで公的機関が発行した身分証明書+認印
2:印鑑登録証明書1通(3か月以内に発行されたもの)+実印
また、遺言検索システムは代理人が利害関係者の代理として利用申請することも出来ます。
その場合は、以下の書類が必要になります。
- 遺言書を書いた人が死亡したことが分かる資料(除籍謄本、死亡診断書など)
- 検索システムを利用する人が利害関係者だとわかる資料(戸籍謄本)
- 検索システムを利用する人の印鑑証明書(3か月以内に発行されたものに限る)
- 検索システムを利用する人の実印が押された委任状
- 窓口に行く代理人の本人確認資料(1か2のいずれか)
1:運転免許証やパスポートなどの顔写真入りの公的機関が発行した身分証明書+認印
2:印鑑登録証明書1通(3か月以内に発行されたもの)+実印
遺産の分割方法
遺産の分割は遺言が無い場合と有る場合で大きく変わってきます。
それでは、遺言が無い場合と有る場合がどのように違うのかを見てみましょう。
遺言書がない場合(法定相続)
法定相続とは、民法で定められた配分で相続人が遺産を相続する方法です。
必ず法定相続分で遺産の分割をしなければならないというわけではないのですが、後述します遺産分割協議の際の相続分の話し合いの目安にもなります。
法定相続分に関しては民法900条に規定されています。
民法 第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
この民法900条は平成25年12月に一部改正されていますので、詳しくは法務省のホームページ『民法の一部が改正されました』をご参照下さい。
遺言書がある場合(遺言相続)
遺言に書かれた遺産分割内容は、民法で定められた法定相続分よりも優先されます。
民法でも下記のように定められています。
民法 第902条(遺言による相続分の指定)
被相続人は、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
つまり、被相続人は、民法で定められた法定相続分と関係なく、自分の意思で「誰にどれくらいの財産を相続させるか」を決める事が出来るということです。さらに、それを第三者へ委託する事も出来るのです。(但し、後述します「遺留分」という例外があります)
遺言が有効と認められた場合、遺言通りに遺産分割が行われます。
遺言書の効力に関しましては『残された妻の負担を最小限に!「遺言書」のすごい効力』をご参照下さい。
法定相続人が相続人として指定されていない場合
いくら財産の所有者である遺言作成者の意思といっても、相続人があってこそ築けた財産といえる場合もあります。
例えば長年連れ添った妻には1円も渡さずに、若い愛人に全財産を渡すといった内容の遺言は、「あまりに酷い!」というケースもあります。
民法では、法定相続人が遺言で相続人として指定されていない場合でも、法定相続分の半分の相続を主張出来る「遺留分」を認めています。
但し、注意しなければいけないのは、この遺留分は、何もしなくても相続されるわけではない、という点です。
裁判所などに申し入れする必要はないのですが、「遺留分減殺請求をする」という請求の意思表示をしなければいけません。
また、兄弟姉妹には遺留分はありませんのでご注意下さい。
遺留分に関しましては『【遺留分】「全財産を、愛人に残す」なんて遺言は有効?知らないと怖い「遺留分」って一体、何?』で詳しくご説明しておりますので、是非ご参照下さい。
プラスの資産とマイナスの負債の確認
残された遺産は現金や不動産のような資産だけではなく、借金のようなマイナスの負債もありますので注意が必要です。
マイナスの負債の方がプラスの資産よりも多い遺産を相続した場合、あなたが負債を返済しなければいけなくなります。
プラスの資産とマイナスの負債にはどんなものがあるのか例を挙げてみましょう。
プラスの資産
- 現金・預貯金
- 土地・建物
- 地上権・借地権
- 貴金属・宝石・骨董品
- 株などの有価証券
- 債権(賃借や損害賠償などでお金をもらう権利)
マイナスの負債
- 借金
- 保証人や連帯保証人としての保証債務
- 滞納している税金
- その他の債務(損害賠償をしなければいけない等の債務)
相続の意思決定(3ヶ月以内)
相続開始日より3ヶ月以内に遺産を相続するか、放棄するかを決めなければいけません。
「相続を放棄する人なんて、いるの?」と思われるかもしれませんが、相続するということは、先程見ましたように、お金や土地だけではなく、借金などの負債も一緒に相続するということになります。
マイナスの負債の方が多い場合、相続してしまうと、あなたが負債を返済しなければいけなくなりますので、相続を放棄することも出来るのです。
以下、遺産を相続する場合、どういった相続方法があるのかを見ていきましょう。
単純承認
「単純承認」は、プラスもマイナスも全ての財産を相続するものです。
一般的な相続方法で、ほとんどの相続が単純承認になります。
マイナスの負債の方が多い場合は、あなたが負債を返済しなければいけません。
相続放棄
「相続放棄」は、一切の財産の相続を放棄するものです。
相続する遺産で現金などのプラスの資産より、借金などのマイナスの負債の方が多い場合に選択される場合があります。
ここで注意したいのが、亡くなられた方が生前に、借金の返済を払い過ぎていて過払い金が返還されるケースがあるということです。
相続を放棄してしまうと、後から「やっぱり相続します」ということは出来ませんので、相続放棄をする前に専門家に相談されるのが良いでしょう。
(相続放棄に関しましては『相続放棄とは』で詳しくご説明しておりますのでご参照下さい。)
限定承認
「限定承認」は、プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐものです。
つまり、プラスの財産を超えたマイナスの負債は相続しないという方法です。
自宅や事業に必要な財産など、相続人がどうしても手に入れたい財産がある時に利用される場合が多いようです。
限定承認で注意しなければいけない点は、相続人が複数いる場合、共同相続人全員が共同して限定承認をしなければいけないという点です。
兄は限定承認で、弟は単純承認ということはできません。
3ヶ月以内に決めなかった場合
相続放棄又は限定承認を選択する場合、家庭裁判所へ申立てをしなければいけません。
相続の開始から3ヶ月以内に相続放棄又は限定承認の手続をしなかった場合は、単純承認となります。
亡くなった方が数千万円、数億円の借金や保証人としての債務があった場合、その負債をあなたが返済しなければいけなくなるので、十分注意して下さい。
準確定申告をする(4ヶ月以内)
相続の開始から4か月以内に、亡くなられた方に代わって確定申告を行う義務があります。これを「準確定申告」と言います。
亡くなると必ず申告をしなければいけないわけではありません。
例えば、サラリーマンの方で確定申告をされる方はほとんどいませんよね。
サラリーマンの方は、2か所から給与を得ている場合や収入が2000万円を超えるというような特殊なケース以外は、会社の年末調整で済むので、確定申告は不要です。
亡くなられた方の生前の所得で確定申告が必要な場合のみ、相続人は準確定申告をする義務があります。
相続人が複数いる場合、全員の連署で準確定申告をしなければいけないという点もご注意下さい。
準確定申告に関しましては『亡くなった人も確定申告が必要!?「準確定申告」って何?』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
相続財産の評価額計算(4ヶ月以内)
相続の開始から4ヶ月以内に相続財産の評価額を計算しなければいけません。
現金のように簡単に「額」を確定できて分けられるものはいいのですが、土地のようにどのように評価するかが難しいものもあります。
土地は一般的には、「路線価×宅地面積」で計算しますが、この額から、さらに土地の位置や形状により補正した額が評価額になります。
この「補正」が素人では、どのように判断してよいか判らないというケースもあります。
- 土地
- 建物
- 有価証券
- 預貯金
- その他
贈与であっても死因贈与などは相続税課税対象になりますのでご注意ください。
詳しくは『贈与税って、何?』をご参照下さい。
遺産分割協議
すべての遺産が確認が終わったら、相続人全員で遺産分割の話し合いをします。
必ず相続人全員の同意が必要ですので、一人でも参加していなかったり、同意していなかった場合は、無効となります。
遺産分割は、必ず法定相続分で分けなければいけないということではなく、相続人全員の合意があれば、どのように分けても構いません。
「お父さんが死んでお母さんの生活も大変だから、お母さんが全部相続していいよ」と相続人全員が同意すれば、妻が100%相続しても問題ありません。
協議が成立したら「遺産分割協議書」を作成して、相続人全員が署名押印します。
遺言書の内容通りに遺産分割する場合は作成する必要はありません。
遺産分割に関しましては『遺産分割協議とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
相続税申告(10ヶ月以内)
相続税の申告は、財産を残される方が亡くなられた日の翌日から10ヶ月以内にしなければなりません。
配偶者控除や小規模宅地の特例を適用すれば相続税はかからない、という場合でも申告をしなければ控除や特例は適用されませんのでご注意下さい。
また、配偶者控除は1億6000万円分の控除を使えば必ず得をするとも限りません。
相続財産に不動産が含まれていて、基礎控除以上に相続財産がある場合は、相続専門の税理士にご相談されることをお勧めします。
配偶者控除を適用した場合に相続税の納税義務がなくても、申告をしなければ適用を受ける事は出来ません。(『相続税の申告期限の注意点!あなたの相続、本当に申告しなくて大丈夫?』をご参照下さい。)
相続税申告をしなかった場合、追徴課税など厳しい罰則があります。(『相続税には時効がある!?申告しないと後が怖い追徴課税』をご参照下さい。)
また、相続税は宅地の評価の方法にもルールがありますので、これを間違えると必要以上に納税してしまうことがありますので注意が必要です。(詳しくは『相続の土地評価で間違えると怖い「宅地の評価単位」』をご参照下さい。
相続財産の名義変更(一部1年以内)
相続財産の分配が決まったら、最後に財産の所有者(名義人)を変更するための名義変更手続を行います。
預貯金、株式などは相続の開始より1年以内に名義変更を行わなければならないという期限があります。
土地や建物といった不動産には名義変更の期限はありません。
不動産の相続登記に関しては『相続登記とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
いざ相続となると、「こんなに大変なのか!」と思われた方も多いのではないでしょうか。
期限までに相続放棄をしなかった為に、借金を相続して返済義務を負ってしまうようなこともありますので、十分注意が必要です。
法定相続分の半分が認められている「遺留分」も、遺留分減殺請求の意思表示をしなければ認められないという事も覚えておかれると良いと思います。
相続は細かい専門知識が必要になる場合が多いので、遺産分割でもめたり、相続税で不明な点があったりした場合は、専門家に相談されるのがよいでしょう。
いざ相続となった時に、このページの情報が少しでもみなさまのご参考になれば幸いです。