残された妻の負担を最小限に!「遺言書」のすごい効力

遺言書の効力

最近テレビや雑誌で相続の記事を目にすることが多くなり「世の中、こんなに相続でもめる人達がいるんだなあ。まあうちは大した財産もないし、妻と子供たちで仲良く分けるだろう。」と思われたことはないでしょうか?実はあなたが亡くなった場合、奥さんとお子さんだけが相続人になるとは限らないのです。

例えば、あなたとお子さんが何かの事故で一緒にお亡くなりになった場合、予想もしていなかった親戚が相続人となって奥さんと遺産分割協議をする可能性もあります。ご家族を亡くされた上に、今までほとんど話もしたことの無いあなたの親族と遺産分割の話し合いをしなければならなくなったとしたら、奥さんの精神的な負担は相当なものだと思います。

そもそも遺言書は多大な遺産を分配する役割だけではなく、「残された家族に余計な苦労をかけないようにする」ためにも大きな効果があるです。

今回は残されたご家族があなたの遺産を相続する上で精神的な負担を出来る限り小さくする「遺言書の効力」を判りやすくご説明致します。是非遺言書の効力を知って、ご自身で遺言書の作成にチャレンジしてみて下さい。

 

遺言書がないと、残された妻が困る5つのトラブル

あなたが亡くなられた場合、残された奥さんがどうなるか考えた事はありますか?
「俺が死んだ後はみんなで仲良く好きに分けてくれ」と思っていても、遺言書がなければ、その「分ける」作業が大変なのです。

以下の条件を想定して遺産がだれに相続されるかをみていきましょう。

・妻と息子1人の3人家族
・あなたの両親はあなたより先に他界
・祖母、祖父母はあなたより先に他界
・兄はあなたより先に他界しており、甥が一人存命
・姉が一人存命
・財産は住んでいる家と土地2000万円と預貯金400万円

●交通事故であなたと息子さんが交通事故で一緒に他界した場合
(仮定でもご自身や身内の方の不幸を考えるのは非常に気が重いものですが、万が一の場合に残されたご家族の負担が少しでも小さくなるための仮定の話ですので我慢して下さい)

この場合、下の図のように相続人は妻と甥、姉の3人になります。

相続図1

では遺言書が無い場合に、あなたの奥さんにどのようなトラブルがおこる可能性があるのかを見ていきたいと思います。

 

【遺言書が無い 1】あなた名義の預金がおろせなくなります

預金凍結銀行機関があなた(口座名義人)の死亡を確認すると、預金口座が凍結され、奥さんがその口座からお金を引き出すことが出来なくなります。それと同時に光熱費や電話の引き落としなどの引き落としも出来なくなります。奥さん名義の口座がある場合は、電気や水道が止められたりしないように引き落とし口座を奥さん名義の口座に変更する手続が必要になります。

銀行口座名義人が全てあなたの名義になっている場合は、相続人全員とどのように遺産を分割するかの合意が出来るまでは、生活費も親族や友人から借りるなどして工面しなければなりません。

 

【遺言書が無い 2】奥さんの住む家がなくなるかもしれません

建物相続相続人(甥と姉)が法定相続分の相続を主張してきた場合、預貯金の400万に加えて現金200万円を用意しなければなりません。用意出来ない場合は住んでいる家か土地を売って現金を工面しなければならない、というケースも考えられます。

義理のお姉さんやあなたの甥と遺産分割の話をするだけでも奥さんにとっては大きな負担になる上に、自分の住んでいる家まで無くなるかもしれないということは大変な精神的不安になることと思います。

 

【遺言書が無い 3】相続人全員と協議をはじめる準備も大変!

遺言が無い場合は遺産は相続人全員の共同相続財産となりますので、全員の合意の上でどのように分けあうかを決める事になります。相続人全員をまず確定しなければならないので、亡くなられたあなたに隠し子がいないか等を調べるためにあなたが生まれてから亡くなられるまでの全ての戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍謄本・改正原除籍謄本を取り寄せる必要があります。
これだけでも大変な作業ですが、遺産分割協議が終わってから実はもう一人いました、となればまた一から協議しなければならないので、どれだけ大変でも最初に相続人の確定をしなければなりません。
相続人が確定した後は、不動産の登記簿謄本、預貯金の残高証明書、保険金の照会申請などそれぞれの機関に申請をして相続財産を確定させます。
相続人の確定、相続財産の確定が終わって、やっと相続人全員と遺産分割の協議をすることになります。

 

【遺言書が無い 4】さらに大変な遺産分割協議!

遺産分割業来「なにがあっても現金で法定相続分頂きますよ!こっちは相続する権利があるんだから!家売ればいいでしょ」と、相続人の間でどうしても遺産分割の合意が出来ない場合は家庭裁判所へ調停を申し立てることになります。

ご家族を亡くされて悲しみに暮れている奥さんが、裁判所へ出頭して遺産分割の話し合いをするというのは、心身ともに計り知れない負担になることと思います。

 

【遺言書が無い 5】あなたへの想い

相続の悩み家庭裁判所の調停で、やっと遺産分割ができ、預金口座の凍結も解除もできて一段落したとしても、この苦労と精神的苦痛は忘れられるものではありません。
「どうして『財産は全て妻と息子に相続する』という遺言書だけでも残しておいてくれなかったの・・・」と感じるかもしれません。

あなたと過ごした楽しい時間が長ければ長いほど、最後の最後に奥さんがあなたに対してこのような気持ちをもたれるのは本当に残念なことです。

 

「遺言書」で解決できる!遺言書のすごい効力

ここでいう「遺言書」は以下の様式のものと仮定します。

  • 公証人が作成する公正証書遺言
  • 不動産と預貯金全ての財産を奥さんに相続する内容の遺言書
  • 奥さんを遺言執行者に指定している。

 

【遺言書のすごい効力 1】銀行口座の凍結解除

公正証書遺言であなたが預貯金の相続人及び遺言執行者を奥さんにすると指定していた場合、一般的には遺言書とあなたの除籍謄本、奥さんの印鑑証明書、奥さんの実印を押した払戻依頼書を提出することで口座の凍結解除をおこなうことが出来ます。
*金融機関によって提出書類は異なりますので、必ず金融機関へご確認下さい。
*自筆証書遺言の場合は家庭裁判所へ検認の申請をする必要があります。(検認終了まで1~2ヶ月かかる場合があります)

遺言書があれば、まずは奥さんが電気、ガス、水道が止められたり、生活費がなくなって周りからお金を工面しなければならなくなるような心配はなくなります。

遺言執行者の指定がない遺言書は、結局、相続時に相続人間でのトラブルとなったり、遺言内容の実現に大変な手間がかかる可能性がありますので、出来るだけ遺言執行者を指定されておくことをおすすめします。遺言執行者に関しては、『遺言執行者】遺言書を書くのであれば絶対に指定しておきたい「遺言執行者」ってどんな人?』をご参照下さい。

 

【遺言書のすごい効力 2】兄弟姉妹への相続分は無しにできる

相続には「遺留分」といって、遺言で「妻に全ての財産を相続する」と書いていても、その他の相続人が最低限相続できる財産が決められています。ただし、この遺留分は兄弟姉妹には認められていません。

民法 第1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

つまり、今回の例でいうと、遺言で「妻に全ての財産を相続する」と残しておけば、姉と甥には遺留分が認められていないので遺産分割協議すら不要になるのです。

家を売って姉や甥への相続分の現金を工面する必要もありませんし、いろいろな書類を集めて遺産分割協議をする必要もなくなるのです。

 

【遺言書のすごい効力 3】奥さんへの愛情・感謝の気持ち

家族への感謝の気持ち今回見てきたように遺言が無いと、残されたご家族が大変な苦労をする場合があります。

残された奥さんがそういった苦労をしないように遺言書を作成することは、奥さんに対する最高の愛情表現だと思うのです。

例え自分と奥さんの両方とも他に身寄りがなく、あなたが亡くなった場合、絶対に奥さんが全財産を相続すると判っていても、あなたが書いた「妻に全ての財産を相続する」という遺言書を奥さんが見たらどう思うでしょうか。

「どうせ私の他に相続人がいないのに、恩着せがましく意味の無いこと書いて!」とは思わないでしょう。

あなたが「財産を奥さんに相続するという意思」を形にすることで奥さんも幸福感で心が満たされることと思います。

そして、それがあなたの奥さんに対する、人生最高の愛情・感謝の表現となるのではないでしょうか。

 

まとめ

まとめ

遺言書が無くても自分が死んだ後は問題無く自動的に法律で決まった通りに遺産は分割されるという考えは間違いです。

遺言書が無い為に残された奥さんが生活費に困ったり、最悪の場合、住む家がなくなることになる可能性もあるのです。

遺言書が無い場合は相続人全員で「どの遺産を誰が相続するか」を決めなければなりません。家族を亡くして悲しみに暮れている奥さんが相続を主張する相続人達と遺産分割の協議を行うことは心身ともに計り知れない負担になることと思います。

残された奥さんに余計な負担をかけさせないようにする、また奥さんへの感謝の気持ち、愛する気持ちを形にするという意味でも、「遺言書」の作成は大きな効力があるのです。
是非、遺言書の作成にチャレンジしてみて下さい。