【遺留分】「全財産を、愛人に残す」なんて遺言は有効?知らないと怖い「遺留分」って一体、何?

遺留分とは

生前浮気ばかりしていた旦那さんが亡くなって、お葬式の準備や財産の確認でバタバタしていたところに、突然「遺言執行者」と名乗る人が訪れて「旦那さんは公正証書遺言というものを残されていて、全財産を愛人に残すとされています」なんて言われたら、どう思うでしょうか?

「え?公正証書遺言?遺言執行者?えっ??愛人に全財産!?・・・
ど、どこまで私に迷惑をかけたら気がすむのよ~!!
と、はらわたが煮えくりかえる思いになるかもしれません。

このような遺族の気持ちを全く無視した遺言書というのは有効なのでしょうか?
もし、有効な場合は遺族は全く遺産を相続出来ないのでしょうか?

 

一定の相続人に確保される遺留分とは

今回のように、他人に全財産を相続するような遺言が残された場合、家族は住む場所も無くなり生活する資金もなくなり路頭に迷ってしまうことも考えられます。そのようなあまりに理不尽な不利益を相続人がこうむらないように、民法では一定の相続人に対して財産の一定の割合を相続できる権利を保証しています。この遺言でも奪うことの出来ない相続財産を「遺留分」といいます。

民法 第1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

相続人の範囲は配偶者、子(孫など直系卑属)、親(祖父母など直系尊属)、兄弟姉妹ですが、兄弟姉妹には遺留分が認められていないので、遺言で兄弟姉妹には相続しないと書かれていた場合は遺留分を請求することはできません。

今回の場合は奥さん(配偶者)ですから、もちろん遺留分は認められていますので、一定の財産は取り返せるのです。

では、遺留分がどれくらい認められていて、どのように遺留分を請求していくのかを見ていきたいと思います。

 

遺留分の計算方法

遺留分は上記の民法第1028条にあるように、直系尊属(親、祖父母)のみが相続人になる時は遺産の3分の1、それ以外(姉妹兄弟除く)の時は遺産の2分の1と決められています。

直系尊属のみが相続人となるというのは、亡くなった本人に子、配偶者がいない場合です。本人が遺言で「恋人に全財産を遺贈する」とされていて、「そんなことは許さない!息子の財産を返しなさい!」と本人の両親か祖父母が恋人に対して請求するようなケースですので、あまり多いケースではないかもしれません。

今回は相続財産を現金3000万円と仮定して、遺言がない場合に奥さん(配偶者)が相続する金額と、遺言で「愛人に全財産を遺贈する」とされた場合に奥さん(配偶者)が請求できる遺留分の金額を見ていきたいと思います。

 

お子さん(2人)がいる場合

遺言が無い場合は奥さんが1/2 お子さん2人が1/4づつとなります。
遺言で愛人に全財産を遺贈するとした場合、奥さんは1/4、お子さんは1/8づつ遺留分を愛人に対して請求することが出来ます。

遺留分1

お子さんがおらず、亡くなった本人のご両親が存命の場合

遺言が無い場合は奥さんが2/3、ご両親がそれぞれ1/6づつとなります。
遺言で愛人に全財産を遺贈するとした場合、奥さんは1/3、ご両親は1/12づつ遺留分を愛人に対して請求することが出来ます。

遺留分パターン2

お子さんも本人のご両親もおらず、本人の兄がいる場合

遺言が無い場合は奥さんが3/4、兄が1/4となります。
遺言で愛人に全財産を遺贈するとした場合、奥さんは3/8の遺留分を愛人に対して請求出来ますが、兄は遺留分がありませんので請求出来ません。

遺留分パターン3

遺留分の請求方法(遺留分減殺請求)

返還の請求が出来る金額が判ったところで、次はどうやって請求していくかの流れを見ていきましょう。
この自分の遺留分を請求することを、「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」といいます。

 

誰に請求するのか

請求相手遺留分減殺請求は財産の遺贈を受けた愛人に請求します。

「包括遺贈に対して減殺請求する場合は、遺言執行者を相手方とすることもできる(大判S13.2.26)」という判例がありますので、遺言執行者に対して請求する事も出来ますが、その場合でも必ず受遺者への請求もおこなうことをおすすめします。

(遺言執行者に関しては、『遺言執行者】遺言書を書くのであれば絶対に指定しておきたい「遺言執行者」ってどんな人?』をご参考下さい。)

 

どうやって請求するのか

実は、遺留分減殺請求はどのように請求するかという形式は決まっていません。受贈者又は受遺者に対して「遺留分を請求します」という意思を表示しただけで効力が生じます。

最高裁昭和41年7月14日判決
遺留分権利者が民法一〇三一条に基づいて行う減殺請求権は形成権であつて、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によつてなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はなく、また一旦、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。

裁判上で請求する必要もありませんし、意思表示だけなので口頭で伝えても効力が生じることになります。ですから、愛人に「私の遺留分減殺請求をしますから、遺留分を返して下さい!」と電話で伝えてもいいのです。

しかし、口頭で伝えた場合、後日愛人から「そんなこと聞いた覚えはありません!」と言われてしまうと意思表示をしたという証明をする方法がないので、「遺留分を請求する意思表示をした証拠」とする為に配達証明付内容証明郵便で遺留分減殺請求書を送りましょう。

内容証明郵便とは、「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便が証明する制度」です。それに「いつ、相手が受け取ったか」を証明する配達証明を付けて送ります。

配達証明付内容証明郵便で送ることで、「いつ、誰あてに、遺留分減殺請求書を送り届けたか」を証明出来ますので、「そんなものは受け取っていない」という言い逃れが出来なくなるのです。

 

いつまでに請求するのか

「請求が出来るなら安心したわ。ちょっと手続が面倒臭いから時間のある時にゆっくりしよう」と思われた場合は要注意です。遺留分減殺請求には消滅時効がありますので、一定の条件下で一定の時間が過ぎても請求しない場合は請求権が消滅します。

民法 第1042条
減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。

今回の場合、愛人に全財産を遺贈されると知った時点から1年間遺留分減殺請求をしなかった場合は、遺留分減殺請求権がなくなります。財産は全て愛人のものになってしまいます。

ですから遺留分減殺請求をすると決めている場合は、早めに請求をしましょう。

 

遺留分返還の流れ

「遺留分を返しなさい」といって「はい、わかりました」となれば良いのですが、実際にはなかなかうまくはいかないものです。「一旦私がもらったものなんだから、絶対に1円も返しません!」ともめることも予想されます。

では、もめた場合にどのような解決方法があるのでしょうか?

 

協議(話し合い)による解決

裁判所を利用せずに当事者同士が話し合って決める方法です。お互い弁護士に依頼して、弁護士同士で協議する場合もあります。時間も手間もかかるので裁判まではしたくないという場合に使われます。

 

調停による解決

協議(話し合い)で解決が出来なかった場合、裁判所を利用して「調停」という方法で解決をすることも出来ます。

調停とは裁判所の調停委員が間に入って話し合いで解決を目指す方法です。法律に精通した調整委員が出す和解案を出し、お互い合意できる解決方法を探して行きます。その結果双方が納得すれば決着しますが、どちらかが納得せず、裁判所が話し合いでの解決が出来ないと判断した場合は調停が終了されます。

 

裁判による解決

調停でも決着がつかない場合は、遺留分を主張する人が訴訟をおこす必要があります。訴訟は裁判官が「判決」というかたちで結論を出しますので、調停のように結論が出ず終了ということはありません。必ず、なんらかの形での結論が出ます。

どうしても話し合いで決着がつかない場合は裁判での解決するという方法を選択することになります。

 

まとめ

まとめ「全財産を、愛人に残す」という遺言があったとしても、遺言でも奪うことの出来ない奥さんの相続財産(遺留分)は法律で保証されています。

その保証される金額は、奥さん以外に誰が相続人になっているかで変わります。ただし、返還請求(遺留分減殺請求)は正確な金額がわからなくても出来ます。

今回のように「全財産を愛人に遺贈」のような場合は確実に奥さんの遺留分を侵害されていますので、その場合は愛人に対して遺留分減殺請求をすることになります。

遺留分減殺請求の形式は決められていないので、相手方(愛人)に口頭、FAXなどでも効力は生じますが、後日の証拠とするために「配達証明付内容証明郵便」で遺留分減殺請求書を送るのがよいでしょう。

この遺留分減殺請求は遺贈があったこと(自分の遺留分が侵害されたこと)を知って1年以内に請求しなければ、請求権が消滅してこの後は請求出来なくなってしまいますので、請求する場合は早めに送りましょう。

遺留分減殺請求をしたからといって簡単に遺留分の返還に応じるとは限りません。その場合は、協議、調停といった話し合いでの解決方法を探り、それでも解決しない場合は裁判で決着をつけることになります。

今回のお話は単純化する為に遺産を現金のみと仮定しましたが、不動産がある場合は評価額や分割方法でさらに難しくなります。

費用はかかるにしても、財産額の評価や遺留分減殺請求で相手の方ともめそうな場合は弁護士さんに相談にいかれるなどした方が良いかと思います。

遺留分の放棄に関しましては『遺留分の放棄とは』で詳しくご説明しておりますので、ご参照下さい。)