平成30年7月13日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」並びに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が公布されました。
これは相続に関する法律の見直しで、昭和55年以来の大改正と言われています。
昭和55年から現在まで社会の高齢化が進み、相続人、特に配偶者の保護の必要性が高まってきました。
お父さんが亡くなって相続が開始した時点では、お母さん(配偶者)も既に高齢で遺産分割協議をはじめとする複雑な相続手続きを処理するのは困難なことが多いでしょう。
このような社会経済情勢の変化に対応するもので、残された配偶者の生活に配慮する観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策が盛り込まれています。
ほかにも、遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止するため、自筆証書遺言の方式を緩和するなど、多岐にわたる改正項目を盛り込んでいます。
大阪相続あんしん相談センターでは、この改正された相続法について説明してまいります。
第一回目は「遺言制度に関する見直し」です。
自筆証書遺言って、本当に「簡単」で「安全」なの?
遺言は現行法では7種類ありますが、通常作成されるのはほとんどが「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかになります。
その中でも自筆証書遺言は何と言っても費用がかからず、思い立った時に好きなように簡単に作成でき、内容を秘密にできる点がメリットでした。
「遺言」と聞いてイメージされるのがこの自筆証書遺言でしょう。
しかし、デメリットもいくつかあります。
- ①本文だけでなく財産目録もすべて自筆する必要があるため、財産が多数ある場合はかなりの負担になる。その他の要件については(https://souzoku.yokozeki.net/how-to-write/)をご確認ください。
- ②自宅で保管されることが多いため、紛失したり、発見した相続人によって破棄されたり改ざんされるおそれがある、またそもそも遺言の存在が知られないことがある。
- ③発見後は家庭裁判所で検認(https://souzoku.yokozeki.net/kennin/)という手続きをする必要がある。
当センターにご相談に来られて自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成された方の多くが、残された相続人に検認手続きという負担をかけたくないという理由でした。
『終活』という言葉が一般的になり、生前に身辺を整理して自分が亡き後残された人の相続トラブルを防止するのに遺言は効果的です。
今回の改正は、その遺言をより時代に合った身近なものにするため、これらのデメリットを解消する内容になっています。
自筆証書遺言が自筆でなくてもよくなる!?
平成31年1月13日以降に作成する自筆証書遺言の、『財産目録部分』は自筆しなくてもよくなります。
自筆証書にパソコン等で作成した目録を添付したり、預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付する等の方法も可能になるのです。
これでは後から相続人が差し替えたりできるのでは?と思われるかもしれませんが、問題ありません。
財産目録には署名押印しなければならないため、偽造も防止できます。
なお、自筆しなくてもよくなるのは財産目録のみで、本文は依然として自筆しなければいけませんのでご注意ください。
特に付言事項(※)などは自筆でのこした方がより『気持ち』が伝わり、ひいては被相続人の想いを尊重して相続人間でのトラブルを回避できることもあるかもしれませんね。
※法的な効力はないが、「遺言を書いた経緯」や「相続人への感謝の気持ち」を記しておくもの
自筆証書遺言は法務局に預けておけば「安心」!
公証役場で保管される公正証書遺言と違って自筆証書遺言に関しては、弁護士事務所や金融機関の貸金庫に預ける一部の経済的に余裕のある人以外は、自宅で保管されることがほとんどでした。
これでは前述したように、自分が書いたとおりに遺言が実行されるのか不安な人もいるでしょう。
そんな不安を解消するために「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が2020年7月12日までに施行されます。
読んで字のごとく、遺言書を法務局で保管してくれるようになるのですが、具体的には次のような流れで手続きすることになります。
①遺言者自身が、封をしていない遺言書を管轄の法務局(注1)に持参して保管の申請をします。
②法務局は遺言書の原本とその画像のデータを保管します。
③遺言者が死亡した後は、相続人等の関係者は法務局(注2)で遺言書原本の閲覧や画像データの証明書を請求できるようになります。この時に相続人等は遺言の内容を確認します。
④相続人等のうち一人が③を行った場合、その他の相続人等に法務局から遺言書を保管している旨の通知がされます。すべての相続人等の関係者が遺言書の存在を知ることになります。
※法律の施行日(2020年7月12日まで)前には法務局に遺言書の保管を申請することは出来ませんのでご注意下さい。
(注1 遺言者の住所地もしくは本籍地または所有する不動産の所在地を管轄する法務局)
(注2 画像データの証明書は全国どこの法務局でも請求可能ですが、原本の閲覧は遺言者が保管した管轄の法務局でのみ可能になります。)
「法務局ってなんだか敷居が高いイメージがあるから、自宅の金庫で保管している方が楽でいいかな。。」
そう考える人もたくさんいることでしょう。
でも、ちょっと待って!
この法務局保管制度には次のようなメリットがあるんです。
【メリット1】法務省が判断してくれます!
法務局が自筆証書遺言の形式的な要件を満たしているか判断してくれます!
法務局には封がされていない遺言書を提出しますが、民法968条で定められている自筆証書遺言の形式的な要件(https://souzoku.yokozeki.net/how-to-write/)を満たしているかを法務局が確認してくれます。
当センターにも「日付は正確に書いた方がいいの?」「書き間違えたんだけど、どうやって訂正したらいいの?」等のご質問が寄せられますが、この点で少し不安は軽減されますね。
ただし、内容の不備まではチェック・アドバイスしてくれないため、誰が何を相続するのか等相続人が判断に迷い、トラブルの元になるような遺言書が出来上がる可能性があります。
遺言者の意思をキチンと反映した遺言書を作成するには、やはり弁護士・司法書士等の専門家に相談した方がいいでしょう。
【メリット2】検認手続きが不要になります!
家族が亡くなった場合、市役所等への死亡届の提出、葬儀の手配、親戚・知人への連絡等やるべきことがたくさんあります。
そんなたくさんの作業の中で、遺言書を発見したら「速やかに」家庭裁判所で検認を請求しなければならないとされています。
検認とは、家庭裁判所が行う手続で、相続人に対して遺言の存在及び内容を知らせるものです。
(検認に関しましては『検認とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
この検認が、残された相続人の負担となっていました。
しかし、法務局保管制度を利用した場合、ナントこの検認手続きを省略できることになるんです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
相続をめぐる紛争を防止するのに遺言は非常に効果的です。
手数料等の詳細はこれから施行までの間に定められていくと思われますので、改めてご案内します。
今回ご説明した改正はこれまで言われていた自筆証書遺言のデメリットを払拭し、ますます利用しやすいものとなるとともに、相続トラブルも減少するのではないでしょうか。