親からの援助は遺産「争族」をまねく!?「特別受益」とは

手のかかる子ほどかわいいといいます。

親はいくつになっても、子どもの心配をするものです。

体調を気にしてメールを送ったり、家庭菜園で採れた野菜を送ってくれたり、定期的に家にきて掃除をしてくれたり・・・それだけであれば微笑ましい話です。

しかし、子どもを心配するあまり、お小遣いの範囲を超えたお金をあげていたとなると、親の亡き後相続の際にトラブルになるかもしれません。

「定職につかない長男に、毎月生活資金を援助していた。」「リストラされた長男が突然事業を起こすと言い出したので、まとまった金額をあげた。」等の話はよく聞きます。

親が亡くなり遺産分割協議をする際に、このような援助を受けてきた手のかかる兄と、成人してすぐに結婚・独立し親の助けを借りずに家庭を築いてきた弟が親の遺産を平等に分配するのは不公平だと感じませんか?

このような場合に相続人間の不公平を解消するために「特別受益」の制度があります。

それでは、特別受益とはどういった制度なのかを詳しくご説明したいと思います。

 

特別受益制度のしくみ

親が生きているうちに親から不動産を譲り受けたり、マイホームの購入のための資金を援助してもらった(生前贈与)場合や、遺言によってある銀行の預貯金をすべてもらったり(遺贈)した場合に、それらのお金を「特別受益」として親(被相続人)が亡くなったときの相続財産に含めます。

そして、その合計したすべての財産を遺産分割協議の対象とします。

これを特別受益の持戻しといいます。

【例】

被相続人→父(相続財産5,000万円)

相続人→母、長男、二男

本来であれば、法定相続分に応じて以下のとおり相続するハズでした。

母:5,000万円×1/2=2,500万円

長男:5,000万円×1/4=1,250万円

二男:5,000万円×1/4=1,250万円

しかし、二男はマイホーム購入資金として1,000万円を父から援助してもらっていました。

この場合、その1,000万円を含めた金額6,000万円を相続財産とみなします。

母:6,000万円×1/2=3,000万円

長男:6,000万円×1/4=1,500万円

二男:6,000万円×1/4-1,000万円(特別受益分)=500万円

このように計算することで、相続人間の不公平が解消されることになります。

 

特別受益になるもの、ならないもの

すべての生前贈与が特別受益にあたるわけではありません。

民法903条1項

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

条文ではどこまでが特別受益に含まれるか具体的な基準を示していないため、亡くなった人(被相続人)の資産、収入、職業または社会的地位等を考慮して、援助や贈与が親の扶養義務の範囲内か範囲を超えて特別受益とされるかを総合的に判断されます。

 

学費

兄弟のうち一人だけに高等教育を受けさせた場合は、原則的に特別受益となりますが、高校進学率が高い現在では、高校卒業までにかかる学費の援助は親の子に対する扶養義務の範囲内で、特別受益にあたらないと考えられています。

では、大学に進学した場合はどうでしょうか。

「大学全入時代」といわれるようになった昨今では、私立の医学部や海外の大学院まで行かせてもらった等、特別高額の場合を除いて、通常の大学・短大・専門学校等の学費程度では、特別受益にあたらないという考えが有力です。

 

生活費・小遣い

一度に数百万単位の高額なお金を援助した場合は、特別受益と認定されると考えられていますが、一月数万円程度のいわゆる「仕送り」を受けていた場合は、特別受益にあたらないとされるのが一般的です。

 

結婚費用

条文上の特別受益に該当する「婚姻費用及び養子縁組費用」というのは、いわゆる持参金・支度金(※)のことで、現在この風習はあまり存在しません。

結納金や結婚式の費用については、原則として特別受益にならないと考えられています。

とはいえ、相続人中に既婚者と未婚者がいる場合には、とくに多額ではない結婚式費用も特別受益として考慮するとした裁判例もあります。

※裕福な家庭の女性が貧しい男性の家に嫁入りするときに、持参金を用意する習慣がある。結納が男性側のみの負担であるのに対し、持参金は女性側のみが負担する。

 

生命保険金

保険金受取人である相続人が受け取った死亡保険金は、原則として特別受益にはあたりません。

相続人が受けた保険金が相続財産全体と比較してあまりにも過大である等、相続人間の不公平が著しい場合には、特別受益に準じて取り扱うとされています。

過去の判例等では生命保険額が相続財産の50%を超えると特別受益にあたるとされています。

しかし、単純に相続財産と保険金額の割合だけで決まるわけではなく、例えば保険金を受け取った相続人が生前に被相続人である親と同居して介護していた等の事情がある場合は、多少高額の保険金を受け取ったとしても、不公平ではないため、特別受益にあたらないとされる可能性もあります。

 

遺贈

遺贈とは、遺言書によって、お金や不動産等の相続財産を無償で相続人に譲り渡すことをいいます。遺贈の場合は、学費、生活費等の目的にかかわらず、すべてが特別受益とされます。

 

特別受益を受けた場合は、必ず持戻し計算がされるの?

事故で障害を負った長男のために、まとまった生活費を援助した場合、通常親は相続分の前渡しとして持戻し計算されることを望んでいるでしょうか?

特別受益は相続人間の公平を図る制度です。しかし、その家族の状況を考慮せずに杓子定規にこの制度を適用してしまうと、かえって不公平を助長してしまう恐れがあります。

被相続人が「持戻し計算をしなくてよい」という意思表示をした場合は、特別受益として取り扱わなくてもよいことになります(特別受益の持ち戻しの免除・民法903条3項)。

この持戻し免除に特別な方式は必要とされていないため、相続人に口頭で伝えておくだけでも成立します。しかし、後々のトラブルを防止するために遺言書等の書面に残すべきでしょう。

【文例】

『遺言者は、これまで相続人Aにした生活費等の生前贈与による特別受益の持ち戻しについては、すべて免除する。』

 

まとめ

まとめいかがでしたでしょうか?

「お前は家を新築したときに頭金を援助してもらったのだから、遺産は多めにもらうぞ!」

「兄さんだって大学院まで行かせてもらったじゃないか!同じくらいかかったんじゃないのか!?」

誰だって子どもたちのこんな争いは望んでいないはずです。

特別受益の制度をしっかりと理解し、生前のうちに自分にはどのような種類の財産がいくらあって、いつ誰に贈与したのか等正確に書面に残しておき、かつ特別受益のことや誰にどの財産を取得させるのか等を遺言書に残しておくことで、トラブルの火種は最小限に抑えることができるでしょう。