あなたの旦那さんが亡くなられて、自宅金庫から自筆で書かれた遺言が出てきました。封印されていたので「何て書いてるのかしら?妻だから開けてもいいわよね」と開封してみたところ「遺言者山田太郎は次の不動産、預貯金を含む一切の財産を遺言者の妻山田花子に相続させる」「遺言執行者として遺言者の妻山田花子(昭和○○年○月○日生)を指定する。」と書かれていました。
「やっぱり私の事を考えてくれてたのね。うれしいわ」と感激し、旦那さんの銀行口座の名義変更をするために遺言書と通帳を持っていたところ、銀行の担当者から「検認済み証明の無い遺言書では口座の名義変更はできませんよ。」と言われてしまいました。
「検認・・・?」
公正証書遺言以外の遺言は「検認」という手続を受けなければなりません。今回はこの「検認」とはどういったもので、どのように申し立てをするのか、といったことを見ていきたいと思います。
「検認」とは
検認とは、家庭裁判所が行う手続で、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるものです。遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するために行います。
遺言書の存在が明確であり偽造・変造の危険がない「公正証書遺言」は検認の必要がありませんので、相続開始後すぐに遺言書の内容を執行することができます。公正証書遺言に関しては『安全・確実に遺言書の内容を実行させたい人は「公正証書遺言」にするべき3つの理由』をご参照下さい。
【民法 第1004条】(遺言書の検認)
1.遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2.前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3.封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
後述しますが、検認は遺言書の有効・無効を判断するものではありませんので、検認が終わった遺言書だからといって有効になるとは限りません。
誰が申立てするの?
遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければならない、とされています。つまり「遺言書の保管者」又は「遺言書を発見した相続人」が検認の手続を家庭裁判所に申立てすることになります。
今回のケースでは、自宅金庫にある遺言をみつけた妻の山田花子さんが申立てをすることになります。遺言の保管者や発見した相続人は申し立てをする義務がありますので、申立てをせず、検認を経ないで遺言を執行した場合には、5万円以下の過料(金銭罰)が科せられます。
ちなみに、今回の山田花子さんのケースのように、封印のある遺言書を家庭裁判所以外で開封した場合も、5万円以下の過料が科せられることになりますので注意して下さい。(開封したことで遺言が無効になるということではありません)
どうやって申立てするの?
検認の申立先
遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てをします。
検認の申立費用
1. 遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分
2. 連絡用の郵便切手(申立をする家庭裁判所により異なりますのでご確認下さい)
*82円×相続人数×2+α枚といった場合が多いです。
申立てに必要な書類
(1)申立書
(2)標準的な添付書類
1. 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
2. 相続人全員の戸籍謄本
3. 遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【相続人が遺言者の配偶者と父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合】
4. 遺言者の直系尊属で死亡している方がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
【相続人が不存在の場合,遺言者の配偶者のみの場合,又は遺言者の(配偶者と)の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合】
4. 遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
5. 遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
6. 遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
7. 代襲者としてのおいめいに死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
検認ってどうやって進んでいくの?
検認期日
検認を行う日を検認期日といいます。検認の申立て後、相続人全員へ裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知をします。申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは各人の判断に任されています。全員がそろわなくても検認手続は行われます。
検認期日には、申立人は「遺言書」「申立人の印鑑」そのほか担当者から指示されたものを持参します。
検認の申立をしたとしても、すぐに検認が行われるわけではありません(通常1ヶ月~2ヶ月かかります)
検認が終わらなければ亡くなった方の銀行口座からお金をおろしたり、名義変更をすることが出来ません。生活費に使う口座が亡くなった方名義になっている場合は残された家族が1ヶ月~2ヶ月間の生活費に困ることにもなりますので、注意が必要です。
検認の実施
申立人が遺言書を提出し、出席した相続人などの立会のもと、封筒を開封し、遺言書を検認します。検認調書の作成や検認済証明書の手続などで30分程度で終わる場合が多いようです。(あくまで一例ですので、検認にかかる時間は諸事情によりかわります)
検認の後はどうするの?
申立人に遺言書の原本に検認済みの表示をした上で返却されます。
検認に立ち会わなかった申立人、相続人、受遺者等には検認が完了した旨の通知書が送られます。
検認が終わったとしても、遺言の執行をするためには、遺言書に「検認済証明書」が付いていることが必要ですので、検認済証明書の申請をします。(遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要)
検認が終わったら、遺言書は有効になるの?
検認は、「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるもの」なので、遺言書が有効か無効かを判断するものではありません。ですから、検認後に「この遺言書はおかしい!」と相続人の誰かが言い出し、その相続人が遺言が有効か無効かを争おうとする場合、「遺言無効確認訴訟」という訴訟を提起し、訴訟によって遺言書が有効か無効かを決めることになります。
まとめ
「検認」とは相続人に対し遺言の存在及びその内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続であり、公正証書遺言以外の遺言は、検認手続が済んでいなければ執行することができません。
遺言書を保管していた者又は遺言書を発見した相続人は遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。検認の申立てをしなかったり、検認前に封印されている遺言書を開封したりした場合は5万円以下の過料を処されますので注意して下さい。
申立人は検認期日に立ち会わなければなりませんが、その他の相続人は立ち会わなくても構いません。
銀行口座の名義変更や不動産登記などの遺言の執行をするためには、遺言書に「検認済証明書」が付いていることが必要ですので、検認後には検認済証明書の申請をします。
検認は遺言の有効・無効を判断するものではありませんので、遺言書の効力に関して争う場合は「遺言無効訴訟」を提起して訴訟によって有効か無効かを決める事になります。