安全・確実に遺言書の内容を実行させたい人は「公正証書遺言」にするべき3つの理由

公正証書遺言にするべき理由

70才になったAさん。軽い脳梗塞で病院に運ばれて以来、自分が死んだ後の事を真剣に考えるようになりました。「うちの財産はほとんどが不動産で、子供も4人いるから、私が死んだらもめるだろうなあ。妻も子供達と遺産分割の話は嫌だろうから、やっぱり遺言は書いておこうかな」と思って、遺言に関してインターネットで調べてみると、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」というものがあると判りました。

「遺言って、自分の好きなように紙に書いて印鑑を押して封をすれば良いと思ってたのに、意外と面倒なんだな。で、結局、自筆証書遺言っていうのと公正証書遺言っていうの、どっちがいいんだろう?」

遺言には、普通方式と呼ばれる「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」と、特別方式と呼ばれる「一般臨終遺言」「船舶遭難者遺言」「伝染病隔絶者遺言」「在船者遺言」がありますが、ほとんどの遺言は、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」で作成されます。

今回は安全で確実と言われる「公正証書遺言」とはどのようなものかを、「自筆証書遺言」と比較しながら見ていきたいと思います。

 

公正証書遺言と自筆証書遺言の違い

自筆証書遺言とは、文字通り自筆で作成する遺言で、紙と筆記用具、印鑑があれば自分で作成が出来ます。(自筆証書遺言の詳しい書き方やメリットは『「その遺言は無効です!」とならないための自筆証書遺言の書き方5つのポイント』で書いていますのでご参照下さい。)

公正証書遺言は、法務大臣に任命された公証人という法律の専門家が遺言書を作成します。つまり、公正証書遺言はあなた自身が遺言書を書くのではなく、公証人にあなたの意思を伝えて、公証人が遺言書を作成するのです。

「公正証書遺言」は費用面や証人を手配するなどの手間がかかる反面、さまざまなメリットもあります。そのさまざまなメリットがある「公正証書遺言」を作成するにはどのようにするのかを見ていきます。

 

作成費用がかかる

費用公正証書遺言の自筆証書遺言との大きな違いの一つは、費用がかかるという点です。この費用は相続財産の金額、相続人の数によって変わってきます。遺言者が病気などで公証役場へ行けない場合は、公証人が自宅や病院へ出張して作成する事も可能です。その場合は病床執務費用、日当、旅費が加算されます。

公正証書遺言の作成費用は日本公証人連合会のホームページでご確認頂けます。
http://www.koshonin.gr.jp/hi.html

例えば、3000万円の遺産を妻2000万円、子供2人に各500万円づつ相続させたいという場合は、23,000円(妻)+11,000円(子供)×2名+11,000円(遺言加算)で56,000円となります。細かい条件によって費用がかわりますので、正確な金額を確認したい場合はお近くの公証役場へお問い合わせ下さい。

 

証人が必要

証人二人公正証書遺言の作成する為には相続人の戸籍謄本や住民票、不動産の登記簿謄本、固定資産税評価証明書、預金などの財産明細といったものを用意する必要がありますが、こういった作業はなくても自筆証書遺言は作成出来ますが、きちんとした自筆証書遺言を作成するためには必要な作業といえます。

自筆証書遺言との大きな違いは、公正証書遺言では作成時に証人2名の立会いが必要になる点です。証人が必要な理由は、「遺言者本人に間違いがないことを確認するため」、「遺言者が自己の意思に基づき遺言をしたことを確認するため」、「公証役場で公に遺言を作成したことを確認するため」であり、証人を設けなければいけないということは民法で定められています。

民法 第969条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

この「証人」に関しては下記のように未成年や相続人はなることが出来ないと民法で定められています。

民法 第974条(証人及び立会人の欠格事由)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一  未成年者
二  推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三  公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

証人は自分で探しても結構ですし、見つからない場合は公証役場に手配してもらったり、弁護士や行政書士に依頼することも可能です。

このように公正証書遺言を作成するにあたっては、費用が発生することや資料を集めたり証人を探したりする手間がかかることがデメリットのようにも見えますが、これは遺言書の効力を有効にする万全の準備のために必要な作業であるともいえます。

 

遺言の存在や内容を知られる

公正証書遺言の場合、証人2名以上の立会いの下で公証人によって作成されますので、遺言の存在や内容を誰にも知らせたくない場合には、自筆証書遺言で作成するのが良いかもしれません。「預貯金は全て妻A子に相続させる」という内容の場合、証人は預貯金額の明細は判りませんが、公証人には公正証書遺言作成費用を算出する為に相続財産の明細金額を知らせる必要があります。

 

公正証書遺言のメリット

費用や手間がかかる公正証書遺言ですが、メリットとなる点も非常に多く、遺言書通りに確実に相続をさせたいとお考えの場合、多くの方は公正証書遺言を選ばれています。では、「公正証書遺言のメリット」はどうゆうものがあるのかを見ていきたいと思います。

 

【公正証書遺言のメリット1】「検認」が不要

自筆証書遺言の場合、まずは作業を家庭裁判所に検認という手続の申し立てをしなければなりません。この検認が済まなければ不動産登記の変更や銀行預金の解約などは出来ません。

遺言書の検認とは』で書きました通り、検認の目的は、遺言書の内容を確認して偽造・変造を防止することです。公正証書遺言の場合は、公証人が作成した遺言書を公証役場で保管しているので偽造・変造の可能性が無いということから、検認は不要とされています。ですから、相続開始後、直ちに遺言書の内容を実行することが出来ます。

 

【公正証書遺言のメリット2】原則として無効になる心配がない

無効にならない自筆証書遺言は、法律で定められた要式以外の方法で作成してしまった場合、遺言自体が無効になってしまう可能性があります。(『「その遺言は無効です!」とならないための自筆証書遺言の書き方5つのポイント』)

公正証書遺言の場合は、法務大臣から任命された法律のプロである公証人が作成する遺言書なので法律で定められた作成方法の要式の不備や内容の不備によって無効になるという心配は原則としてありません。

自筆証書遺言の場合は有効か無効かを争う場合は遺言無効確認訴訟といって訴訟によって決着をつけることになります。いくら遺言を書いていても相続人の間でもめる可能性は残っているのです。それに対して公正証書遺言は、原則として「有効な遺言書」ですので、遺留分減殺請求以外は遺言書通りに相続手続が進められていくことになります。(『遺留分減殺請求』はこちらのページをご参考下さい)

(*但し、公正証書遺言であっても、遺言者が認知症であり遺言能力がなかったという理由で遺言書が無効となった判例はありますので、100%公正証書遺言であれば有効ということではありません。)

 

【公正証書遺言のメリット3】紛失、破棄、隠匿の危険がない

自筆証書遺言の場合、遺言書の存在自体を遺言者以外が知らないケースが多いので、遺言者が亡くなられた後に遺言書が発見されない可能性があります。また、もし発見されたとしても、発見した人が開封をして、自分に不利な内容だった場合に破棄してしまえば、遺言書があったという事実は誰も知らず、遺言書はなかったものとして相続手続がされてしまう可能性もあります。

公正証書遺言の場合、遺言者と公証人、証人が署名した原本は公証役場に保管されます。公正証書の原本は、公証役場に厳重に保管され、裁判所の命令等特別な場合を除いては、公証役場の外へ持ち出すことが禁じられていますので、紛失や破棄、隠匿の危険がありません。

遺言者には原本の存在と内容を証明するために、公証人が原本の内容をそのまま写して作成した「謄本」と、原本と同一の効力をもつ「正本」が渡されます。

 

まとめ

まとめ公正証書遺言は作成するのに費用がかかったり、証人を手配する手間などがありますが、検認が不要な為に相続が開始すれば直ちに遺言書の内容に沿った相続手続を進められる事、法律の専門家である公証人が作成した遺言書なので原則有効となる事、公証役場で保管されるので紛失、破棄、隠匿の心配がない事を考えると、安全・確実に遺言書の内容を実行させたい場合は「公正証書遺言」で作成することをおすすめします。